クロススケール顕微鏡の開発
計画研究の概要
本領域の推進する「クロススケール新生物学」において、我々のグループは、細胞内にあるメゾ複雑体を分子レベルで可視化し、生命の謎に挑むために、「クロススケール顕微鏡」を開発する。このクロススケール顕微鏡とは、クライオ電子顕微鏡とクライオ蛍光顕微鏡を組み合わせたナノレベルの分解能の顕微鏡のことであり、Correlative light electron microscopy(CLEM)のナノレベル版と言える。
蛍光顕微鏡は、細胞全体を分子選択的にイメージングすることはもちろん、リン酸化などの化学修飾選択的イメージングも可能であるが、分子レベルの分解能はない。一方、クライオ電子顕微鏡は、細胞全体を観察することはできないが、厚さ100 nmに切片化された細胞ならば分子レベルに近い分解能でイメージングできる。このように、2つの顕微鏡は得意とする観察対象が異なっており、二つを組み合わせることができればとても強力な方法になるはずである。しかし、実際には、蛍光顕微鏡の分解能が電子顕微鏡に比べて2桁悪いために、同一視野を観察しても、それぞれの情報を相関させることが困難である。ごく最近、我々はクライオ蛍光顕微鏡の分解能をナノメーターにすることに成功しており、光と電子との分解能の隔たりを解消した。そこで、本課題では、我々が独自開発したクライオ蛍光顕微鏡とクライオ電子顕微鏡とを組み合わせた「クロススケール顕微鏡」を開発することを目指す。特に、当該課題では、試料共有のための技術を重点的に開発する予定である。これにより、細胞内のメゾ複雑体を観察し、生命現象の謎に挑む。
主な研究業績
- Ishida K., K. Naruse, Y., Mizouchi Y. Ogawa M., Matsushita M., Shimi T., Kimura H., S, Fujiyoshi S. Variable immersion microscopy with high numerical aperture. Opt. Lett., 46, 856 (2021).
- Furubayashi T., Motohashi K., Wakao K., Matsuda T., Kii I., Hosoya T., Hayashi N., Sadaie M. Ishikawa F., Matsushita M., Fujiyoshi S., Three-Dimensional Localization of an Individual Fluorescent Molecule with Angstrom Precision. J. Am. Chem. Soc., 139, 8990-8994 (2017).
- Fujiyoshi S., Hirano M., Matsushita M., Iseki M., Watanabe M., Structural Change of a Cofactor Binding Site of Flavoprotein Detected by Single-Protein Fluorescence Spectroscopy at 1.5 K. Phys. Rev. Lett. 106, 078101 (2011).
- Fujiyoshi S., Fujiwara M., Matsushita M. Visible Fluorescence Spectroscopy of Single Proteins at Liquid-Helium Temperature. Phys. Rev. Lett. 100, 168101 (2008).