ギャップ結合を介した細胞競合制御メカニズムの遺伝学的解析
計画研究の概要
細胞競合とは、組織中に生じた変異細胞や異常細胞が周囲の正常細胞との相互作用を介して排除される現象である。我々はこれまでに、ショウジョウバエ上皮中でタンパク質合成能の低下を引き起こす変異細胞(敗者)は、正常細胞(勝者)に近接すると細胞非自律的にオートファジー活性を上昇し、これにより細胞死が引き起こされることを見いだした。さらに、がん原性細胞(勝者)が周囲の正常細胞(敗者)に細胞死を誘導して腫瘍領域を拡大するタイプの細胞競合も同様のメカニズムによって制御されることを見いだした。しかしながら、細胞非自律的現象である細胞競合において最も重要な点である「なぜ勝者細胞に近接する敗者細胞でのみオートファジー活性が上昇するか」については分かっていない。そこでこれを明らかにするために、勝者細胞に近接する敗者細胞特異的に発現上昇する遺伝子群を探索した。その結果、敗者細胞ではギャップ結合関連タンパク質が発現上昇していることがわかった。本研究では、メゾ複雑体としてのギャップ結合関連タンパク質の局在・動態をクロススケールに計測し、これによって制御されるシグナルの遺伝学的解析を行うことで、細胞競合時に勝者細胞に近接した敗者細胞でオートファジー依存的細胞死が起こるメカニズムを明らかにする。これにより、細胞競合の本質である細胞非自律的なシグナル制御メカニズムの解明を目指す。
主な研究業績
- Rina Nagata, Nanami Akai, Shu Kondo, Kuniaki Saito, Tatsushi Igaki. Yorkie drives supercompetition by non-autonomous induction of autophagy via bantam microRNA in Drosophila. Current Biology, 32, 1064-1076 (2022)
- Rina Nagata, Mai Nakamura, Yuya Sanaki, Tatsushi Igaki. Cell competition is driven by autophagy. Developmental Cell, 51, 99-112 (2019)