クライオ電子顕微鏡の特徴
生体分子の構造を調べる方法には、代表的な方法としてX線結晶解析とNMRが挙げられます。2013年以降、以下のグラフに示すように、クライオ電子顕微鏡も「代表的な方法」の一つとして数えられるようになりました。
PDBに登録されている原子モデルの数(縦軸はlogスケール)
それでは、他の方法と比較したときにクライオ電子顕微鏡の特徴とは、何でしょうか? 以下では、主にクライオ電子顕微鏡法の中でもsingle particle analysis (単粒子解析)と呼ばれる方法について、他の方法と比較して説明することにします。
1. 電子線で見ている。
電子顕微鏡なので、当たり前なのですが、電子線で見ると言う事が、他の方法と大きく異なる性質を持たせています。まず、電子線は光に比べると物質と相互作用しやすいという性質があります。このために、電子線が通るためには真空が必要になります。この結果、試料は真空中でも見ることの出来る状態にする必要があります。クライオ電子顕微鏡の場合には、真空中でも水が氷のまま保てる温度に下げることで実現しています。
また、この電子と物質が相互作用しやすいという性質は、分子のコントラストを相対的に高めることになります。Richard Hendersonの論文*によれば、中性子、X線、電子線を比べたときに、一定のradiation damageのもとで最も多くの情報を得ることの出来るのは電子線であると述べています。
Q Rev Biophys. 1995 May;28(2):171-93.
The potential and limitations of neutrons, electrons and X-rays for atomic resolution microscopy of unstained biological molecules.
Henderson R
2. 一つ一つの分子を見ており、結晶化を(必ずしも)必要としない。
3. 大きな複合体の観察をする事が出来る。
4. 必ずしも全ての分子の形が同じで無くても解析する事が出来る。
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