倉永英里奈計画研究代表の成果がNat. Commun.誌に掲載されました
- Inhibition of negative feedback for persistent epithelial cell–cell junction contraction by p21-activated kinase 3 Hiroyuki Uechi, Kazuki Fukushima, Ryota Shirasawa, Sayaka Sekine, Erina Kuranaga, Nat. Commun. 2022 Jun 20;13(1):3520.
私たちの体を構成する組織の一つである上皮組織は、上皮細胞と呼ばれる細胞が密接に接着した状態で構成されています。受精卵から体が形成される過程では、上皮組織内の上皮細胞が同一方向に集団移動することで、シート状の上皮組織を折りたたみ、伸長・陥入・移動などの変形を行い、複雑な器官を作り上げます。しかし細胞同士の接着を保ったまま、どのように上皮細胞が移動できるのか、どのように同一方向に協調的に動くのか、その仕組みの多くは謎のままでした。
倉永ら研究グループは、ショウジョウバエの雄の生殖器が、生殖器官を取り巻く上皮細胞の集団移動によって360度回転しながら形作られることを明らかにしていました(Kuranaga et al., Development, 2011)。この過程では、上皮細胞をつなぐ接着部分でアクトミオシンが偏って集積することで、細胞同士のつなぎ替えが連続して起こり、上皮細胞が集団移動する原動力となっています(Sato et al., Nat. Commun. 2015, Uechi and Kuranaga, Dev. Cell, 2019)。つなぎ替えの仕組みとして分かっていたことは、①隣り合う細胞の細胞接着面にアクトミオシンが集積すると、その細胞接着面は短縮し、②やがて消失して4つの細胞が1点で接する点を形成し、③さらに、この接合点から新たな細胞接着面が、元の接着面とは垂直方向に伸張する、ということでした(図1)。
今回、この細胞同士のつなぎ替えの①の過程において、アクトミオシンを集積させたシグナルが濃縮することで、異常な細胞骨格応答がおこった場合、アクトミオシンが一時的に解離して収縮を妨げることが明らかになりました。この異常な応答は、p21活性化キナーゼ3(pak3)の非存在下によりみられることから、pak3は収縮によって過剰に濃縮されたアクトミオシン活性化シグナルを沈静化する機能を持つことが示唆されました(図2)。
この研究から、細胞のつなぎ替えをおこすための細胞接着面の収縮は、収縮させると同時にアクトミオシンが濃縮することで異常応答して収縮を妨げていること、pak3がそのような異常応答を解消することで、細胞接着面のつなぎ替えがスムーズに起こることが分かりました。この仕組みにより上皮細胞が集団移動することが可能となり、上皮組織が複雑な形の器官を作り上げる原動力となっていると考えられます。
図1:細胞接着面のつなぎ替え(模式図)
隣り合う細胞の細胞接着面にアクトミオシンが集積すると、その細胞接着面は短縮し、②やがて消失して4つの細胞が1点で接する点を形成し、③さらに、この接合点から新たな細胞接着面が、元の接着面とは垂直方向に伸張する。
図2:細胞接着面の収縮におけるpak3の役割
(A) pak3ノックダウンにより細胞接着面にアクチンの異常形成がみられる。
(B) 本研究のモデル図:収縮に伴うシグナルの濃縮により起こるアクトミオシンの異常形成と解離は、pak3により抑制されて収縮が進行する。