鞭毛/繊毛のはたらきと構造
真核生物の鞭毛は、繊毛と同一構造の「9+2」の微小管を核として、およそ500〜800種類のタンパク質から構成される細胞の中でも最も複雑で精巧に作られている小器官の一つです。(上図)。
ヒトのほとんどの細胞には鞭毛・繊毛が存在しており、アンテナやプロペラとして働いています。例えば、マウス初期胚のノードには繊毛があって、その動きにより体の左右性が決定されています。ヒトにおいても同様の仕組みで左右が決定されており、ノードの繊毛の異常による内臓逆位が起こる代表的な病気としてカルタゲナー症候群があります。また、腎臓の上皮細胞に一本ずつ生えている原始繊毛(primary cilia)は水流を感知するセンサーとして働いており、その機能が失われると、腎臓に嚢胞が多数できて腎不全を発症します(多発性嚢胞腎)。
このように、繊毛・鞭毛の機能不全によって引き起こされる病気を総称して「繊毛病(ciliopathy)」、さらにその中でも繊毛・鞭毛の動きが悪くなることで起こる病気を原発性線毛機能不全(Primary ciliary dyskinesia, PCD)と言います。
従って、鞭毛・繊毛の構造と機能を理解することは生物の仕組みや病気のメカニズムを理解する上でも重要になってきており、鞭毛・繊毛に関する論文は2001年を境に、2.7倍に増加しています。(下の図は、pubmedに登録されているflagellaまたはciliaに関連する論文数を年ごとにプロットしたもの。)
鞭毛の動きの仕組み
鞭毛/繊毛の内部には軸糸(axoneme)と呼ばれる共通の構造があり、微小管が周辺に9本(A小管とB小管)、中央に2本(中心微小管)が収まっています。周辺微小管上には2種類の軸糸ダイニンがあります 。ダイニンは、ATPの加水分解で得られるエネルギーを使ってA小管とこれに隣接するB小管の間に滑り運動を起こします。
この様に整然と見える鞭毛ですが、ゲノム情報と質量分析によって600種類以上のタンパク質で構成されることがわかってきました。しかし、これほど多くの種類の分子が、自然に集まって、非常に規則的な構造を作る仕組みについては良くわかっていませんでした。
遺伝学と構造生物学を組み合わせたアプローチ
我々の研究室では、このように非常に複雑な鞭毛の「システム」を研究するために、構造と機能の両面から新たな手法を開発しています。