Single Particle Analysis (単粒子解析)
この解析法は、結晶等のように多数の分子が集まっている状態ではなく、一つ一つ分かれている単粒子の画像を多数集めて、S/Nを上げる方法。
結果として得られるものは、二次元の画像の場合と、三次元の構造の場合があります。
試料について
単粒子解析、特に、クライオ電子顕微鏡を用いる解析の場合には以下の様な試料が必要になります。
- 精製された生体分子 できるだけpurityの高い試料が必要。80%以上の精製度が望ましい。
- 100 kDa 以上の分子量 三次元再構成をするためには、2Dの電子顕微鏡像の回転(3自由度)、translation(2自由度)を正確に決める必要があります。これには、分子自体の十分な情報が必要で、現実的には100 kDa程度の分子量が必要となります。
- 1 mg / mL 以上の濃度 クライオ電顕で十分な像を得るためには 1 mg / mL以上、できれば数mg / mLの濃度のタンパク質が必要になります。
- 単分散 分子同士がaggregateしていないことが重要です。
こうした純度や単分散を確かめる一つの方法としては、精製の最終段階でゲル濾過カラムに掛け、シングルピークであることを確かめると非常に有効です。
二次元画像の例
Mouse IgMの二次元平均像 (Hiramoto et al, 2018より)
三次元再構成するには?
氷の中には分子が様々な方向を向いて存在しています。つまり、電顕写真には様々な方向から射影された姿が写っている事を利用します。
この方法では、写っている分子の形は全て同じ形をしていると仮定しています。(つまり「単粒子」)
歴史的には、リボソームの構造がこの方法で解かれてきていることが有名です。
しかし、2013年にYifan ChengのグループがTRPV1チャンネルの構造を解いてからは、膜タンパク質の構造が続々と単粒子解析法で解かれてきています。
単粒子解析方で解かれた分子構造の例:LRRC8 (Kasuya et al, 2018より)
単粒子解析法で得られる解像度は?
解析法や電子顕微鏡の進歩により、解像度は向上しており、テスト試料であれば 1.6 Åの解像度を達成しています。
単粒子解析法によって解かれたApoferritinの構造 (EMDB-9599) ベンゼン環の形をはっきりと見ることが出来る。
単粒子解析の難しさ
しかし、どの試料でもこのような高い解像度が得られるわけではありません。以下の様に幾つかの要因がある為です。
- 試料が壊れる。:クライオ用のグリッドを作る過程で、多くの試料は壊れることが多い。これは、非常に薄い水の膜を作るので、空気と水の界面に試料が曝され、タンパク質が変性することがわかっています。このため、クライオ電子顕微鏡・単粒子解析でタンパク質の構造を解くには、グリッド作りの条件を試行錯誤することが必要になります。
- タンパク質の構造が柔らかい:単粒子解析では、多くの分子の平均像として三次元像が得られるので、分子が柔らかいと平均化した分子像は「ぶれ」てしまいます。一方、この「ぶれ」は分子のダイナミックスを反映しているので、形で分類する事で、幾つもの状態の構造を解く試みも行われています。